研究室 分権マネジメント
Laboratory of Decentralized Manegement

       分権マネジメント  
著作) 下島英忠   
1.マネジメント
 マネジメントは、あらゆる「組織体」で実施される「目的実現」のための「機能」です。この機能は、一般に「マネジメント・サイクル」として表現されるような、その目的実現に向けた「計画」、「実行」、そして、「統制」の各過程を継続的に繰り返すことで成り立つと考えられています。(図1「マネジメント・サイクル」参照)。

図1 マネジメント・サイクル

(Stephen P. Robbins, Mary Coultar, Management fifth ed., Prentice Hall International Ed.,’96より)

2.集権構造と分権構造
 このマネジメントは、それが執行される組織体の構造のいかんによって、その特性がまったく異なります。つまり、それが「集権構造」において執行されるのか、それとも「分権構造」でなのかです。

 集権構造では、少数の支配的主体が指示命令する中で、規制力を伴うマネジメントが成立しますが、他方で、分権構造では、さまざまな同格の主体が自律的に行動する組織環境において、全体としての「まとまった成果」をつくり出すマネジメントが成り立ちます。(図2「集権構造と分権構造」の左図は「集権構造」、右図は「分権構造」)。

図2 集権構造と分権構造


3.分権マネジメント
 分権マネジメントは、行動主体の「行動の自律性」がその成果の基盤になりますので、組織体の構成員がみずからの行動特性を知悉していると共に、それを引き出しながら、全体の動向を「目的実現」に向けていく役割を担う「コーディネイター」が必要になります。(図3「ネットワーク型組織構造」の「構成員」と「コーディネイター」の構成を参照)。

図3 ネットワーク型組織構造


 同時に、このような「協調的な行動」を全体的に実現するためには、各組織体のすべての行動が「データベース」によって支援されるようなIT環境の充実が求められます。つまり、「情報」の共有による「まとまりのある行動」の形成です。したがって、これを実現するためのマネジメントこそ、「分権マネジメント」の真髄なのです。

 なお、現実にみられるマネジメントは、圧倒的に「集権マネジメント」です。このようなマネジメントの現状は、今日の日本社会の長期的な閉塞状況と無関係ではありません。多くの人々が嬉々として取り組む事業がわれわれの社会において見いだしえない実態を反映しているのです。「分権マネジメント」について、真剣に考える必要があります。

4.分権マネジメントの必要性
 社会の経済発展の水準が高度化するにつれて、人々の欲求は、マズローの「欲求段階説」に従いますと、「経済的欲求」から「自己実現欲求」へ変遷していきます。(図4「経済発展と欲求形成段階」を参照下さい)。

図4 経済発展と欲求形成段階


 「豊かな社会」での「自己実現欲求」は、「学習行動」のような非物質的な形態で、しかも、一人ひとりで異なった欲求となって現れますので、「集権構造」における一律の経済行動よりも、「分権構造」での多様性を指向する経済行動の方がはるかに適合的といえます。

 つまり、社会が多様な個性から成り立ち、その個性を輝かせるような「分権マネジメント」が機能しているとすると、みずからの特性を生かしながらの社会的な「価値形成」が可能になり、個人も社会も共に生きる関係性が創られるはずです。この特性が今日の日本社会には欠落しているのです。

 現代日本社会の経済発展段階を踏まえますと、社会のあらゆる分野の組織体や諸機関における、「分権マネジメント」の重要性はいくら強調しても、し過ぎることはないほどです。

Laboratory of Decentralized Management

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